GWアイドルソング備忘録1

 ゴールデンウィーク初日が最悪になってしまいそうなTwitterのおすすめ欄だった。自分も、休みの勢いで気が大きくなることに気をつけなければなと思った。争いの中でもアイドルのツイートは最高にキラキラしていて、SNSのオアシスだ。イコノイジョイみたいなテンション感のグループが今日のライブでお披露目らしい。シャプシャプとフラフラ。どっちも7人組で、もしかしたらメンバーは色じゃなくて音階を担当しているのか?と興味を持ったが、今から焦って原宿まで行くこともないだろうという気持ちはいつも通りで、紆余曲折の音源探しがあり、結果、原宿駅前パーティーズNEXT「Driving My Love!」に辿り着いた。
 ライブアイドルソングのディグはIDOL DIAGRAMによって少しだけ体系化され、私はFlutter♭、mai mai、LiKE(原宿駅前パーティーズNEXT)から石井優希さんの歌を聴いていくことになった。

 

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Driving My Love! / 原宿駅前パーティーズNEXT (2017)

作詞: 昆真由美
作曲: 藤本貴則

 

 良い。これがグループとして一曲目だったらしい。ざっくりめなギターのストローク、妙に明るいユニゾンのボーカルと合うほんの少しだけ黒いベースが好きな王道J-POPで、声を立たせるための強いキメやとりあえずのHey連発が過剰で味わい深いというアイドル性に思える。サブスクで検索をしても出てきた曲は杏里だ。こちらも久しぶりに聴いて、あまりの名曲に震えた。
 mai maiに関しては「雨に唄えば」をジャズ系のアイドルソングという括りで以前から好いていて、石井さんの新しいグループの楽曲をチェックする理由も明確になった。
 新旧も国も問わず大量の音楽を聴きまくっていると訳わからなくなるのは当然で、自分が楽しくアイドルソングを聴いていくにはその日だけでも軸を決めておきたい。
 彼女のTwitterを見た瞬間、あの、グラビア画像を“楽曲派”と表現するオタクのように、もしかしたら自分もいつかそうなってしまうのか…とちょっと怯えたりした。それでも、ライブに行かなかったし、応援のためにデジタル写真集を買うべきなのだろうか。もしかすると”応援”は最高の言葉かもしれない。雑誌を新譜と言った自分を思い出した。どうすりゃいいんだ。

25歳好きな音楽まとめ10枚

・誕生日に何か書きたかった

・好きな音楽のことなら書けそう

 

Undercurrent / Bill Evans, Jim Hall (1962)
 今すぐにでもほどけてしまうのではないかと心配に思うほど、退廃的な音の間作りを最初から最後まで丁寧に保ち続けた奇跡のアルバムです。昼も夜も、いつだって心の底から美しいと思う演奏が聴けます。

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Out To Lunch / Eric Dolphy (1964)
 衝撃的でした。ドルフィーがリーダーでないと作れなかったスタジオ録音だと思います。凝り固まって隙もない苦しい演奏なのに無限の自由空間を感じます。Eric Dolphyは憧れの人です。

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MISSLIM / 荒井由実 (1974)
 両親がユーミンの大ファンで、小さい頃からカーステで散々聞いていました。最後の3曲が凄まじい。全ての曲全てのフレーズが最高。何より、ユーミンの歌だからこそ暖かい作品です。

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Physical Graffiti / Led Zeppelin (1975)
 全曲が好きな二枚組。 In the Lightが一番好きです。特にC面とD面で妙な悲しさが40分も続く、知的で湿っぽい雰囲気が大好きです。A面とB面は誰もが認める名曲揃い。風格に圧倒される最高のハードロック!

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彗星パルティータ / 阿部薫 (1981)
 病気でしんどい時の子守唄でした。ただひたすら朝まで聴き続けていたので、もうそれ以上の体験があるのかわからないけれど、今でもたまに聴いたりします。いや結構聴いてるかも。冷静になってもやはり良い。フリージャズ名盤中の名盤。

(サブスクなし)

 

深海 / Mr.Children (1996)
 人生で初めて音楽の『アルバム』が好きという感覚になった作品です。小6でした。父親にレンタルしてもらい、CDRへの焼き方も教わりました。その時に焼いた深海のCDは手元にあります。宝物です。

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In The Aeroplane Over The Sea / Neutral Milk Hotel (1998)
 昔、一目惚れした女の子におすすめされたアルバム。iPodの画面で、とにかくコレを絶対に聴けと。最高の作品でした。今では1stも同じくらい好き。アルバムは2枚ともレコードで持っていて、いつも過剰な気持ちで針が落ちる瞬間を見ます。

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My Lost City / cero (2012)
 同名の久石譲作や元ネタのフィッツジェラルド、「My Lost City」は芸術を鑑賞する時の考え方で基準のひとつとなりました。あまりにも聴きすぎて最近は再生することも稀になっています。荒内佑さんのファンです。彼のソロアルバムや書籍も好き。

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走り出す瞬間 / けやき坂46 (2018)
 アイドルが表現した全28曲、アルバム新曲が18曲の力みすぎた精神性。それはあの時『走り出す瞬間』に込められなければならなかった必然とどうしようもない時間の長さを感じさせます。数え切れない思い出を作ってくれてありがとう。

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thirdShoes. / tipToe. (2018)
 2016年辺りからアイドルにのめり込み、たくさんの魅力的な音楽を知りました。その中で最も好きな作品です。この気持ちが変わることをまだ想像もできません。死ぬまで聴き続けると思います。「砂糖の夜に」は生涯のフェイバリット。

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感想:書いた後に題名を見返してもかなりしっくりきたのでまとめて良かったなと思いました

 

 

2023年の好きなアイドルソングをシェア1 (10曲)

 

1. ムーンナイトフィナーレ / スワンスワンズ (1月14日)

 ベースのループフレーズが好きです。反復させることにこだわりを感じました。キメは最後のフェードアウトに全てをかけている雰囲気があります。連続で再生しても聴き疲れしませんでした。良い曲だと思います。

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2. Flip-Flop / CUBΣLIC (1月25日)

 ボーカルが立ちやすいマイナスアレンジのサビ始まりが印象的です。綺麗なサビ終わりはリスナーの心地よさが予測され、しっかり汲み取られた結果の構成だと思います。Cメロが秀逸。

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3. ハッピーワールド / #ドレミファソラシード (1月27日)

 “ハッピーワールドで感情のスタンプラリー”というフレーズが移住をテーマにしたアイドルソングで輝いた素晴らしい曲でした。これが速い曲であることもポイント高めです。

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4. ツクッテクミタテテ-PLAMO MIX- / LINKL PLANET,木下龍平 (1月28日)

 プラモデルをコンセプトに作られたアイドルグループなんだそうです。表拍への情熱がかなり好きです。アレンジを繫げるために機能している4発のキックにやられました。注目していきたいグループです。

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5. レディースコミック / MAPA (2月7日)

 歌詞は好みに入らなくても、音が良ければそれで良いこともあります。だからこそ、それが心地良くてインストじゃない方を聴きます。この曲調で妙にエモーショナルなギターソロの挿入があり、良いです。

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6. レンチン / われらがプワプワプーワプワ (2月28日)

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7. 夏へのとびら / クマリデパート (3月7日)

 冒頭の一拍でサクライケンタ…ブクガから聴き続けてきたあのテイストがさらにポップで楽しめる時のクマリも好きです。

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8. 絶対!らぶれすぽんす / ひめもすオーケストラ (3月14日)

 ひめもすオーケストラが全12曲のサブスクを解禁しました。その中でも、ユニットとソロに特化したアルバム『終日結仁斗祭二〇二三』から、メンバーの百瀬せいなさんが歌唱を担当している「絶対!らぶれすぽんす」が大好きです。百瀬さんはこの曲で初めて作詞を行ったようです。コミカルな音の可愛さと最高のマッチアップを見せた素晴らしすぎる歌詞でした。そして何よりも歌声が好きです。

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9. 教えてよHashtag / 透色ドロップ (3月15日)

 イントロ頭打ちドラムからブリブリのボーカルの組み合わせ(他の透色曲と比較)が最高です。ワンマンを見に行きました。心春さんが(お顔もダンスも特典会も)めちゃくちゃ可愛くて感動しました。Twitterの自撮りを遡って、全部見ました。セガワさんのなんかよくわかんないけど掴めない変な感じもすごく好きで、近いうちにまたお話を聞きに行きたいです。

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10. 黄昏はいつも / 乃木坂46 (3月22日)

 これが年間ベストでいいかも。

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2023年の好きなアイドルソングをシェア1  (10曲) おわり

上品なSpringとカノン進行

 「死ぬ時に今日の事を思い出してください」
 重い。しかしそのカノン進行(MC(煽り))を聞いた時、私は頭の中で追唱する言葉とは少し違う、妙な説得力、そして納得感に包まれていた。
 ライブが始まる数時間前、初対面のセガワ”カノン”さんから聞いた今日の見どころはこれだ。
 「しっとり系の曲が好きだけど、メンバーは笑顔の曲が好きって言ってくれるんだよね。」
 新宿BLAZEで行われた透色ドロップの単独公演は全20曲、演目は『風光る頃』だった。私も、セガワさんによって歌われる笑顔の曲が大好きだと思う約2時間を感じ取った。噛み合わなさをわかっているからこその妙な、知的な説得力、そして何より彼女のあまりにもしっかりとしている間を読んだMCや声量が確保された歌声、あと、熱血とパワーの雰囲気…
 翌朝、セガワさんはこんなツイートをしていた。
 「生きてる?わたしはさっき生き返った」
 生命が停止するという意味での”死ぬ”を込めたことに疑問はないけれど、このツイートが後付けのネタばらしだという考察を受け入れるのならば、それは、毎日今日のコトを思い出してぐっすり寝てねというメッセージ、あのMCは子守唄を奏でる時のような、穏やかな気持ちだったのかもしれない。これでは考察というかただ妄想じゃないか。

 

 せっかくアイドルのライブに来たのだし、すぐ目の前でビジュアルを見てみたいという”ヤッパリ”な感情で心春さんの特典券を入手したのはライブ前日の話だった。どうやらここは電子チケットでチェキが撮れるらしい…と、それはまあ知っていたけれど、前日にアップロードされた写真が自分の好みにちゃんと刺さったのでその気持ちが即反映されたようです。このシステムはヤバイな。理解した。
 中盤くらいからはペンライトを紫色に変えて(これは予定通りです)、その先のステージを見ることが多かったというか、あの、王道J-POPの曲調(最高だ!)を長く見るから美しいというような、ワンマンに行った意味のある感情だった。
 ダンスが凄く上品で、ともすれば省エネとまで言われてしまうような繊細さを味わったと思えば、メンバーもオタクも裏方スタッフも、ブレイズの全員によるMC飛ばしへの甘やかし、その可愛さに完全に釣られてしまいました。”一目でYeah, Yeah, Yeah” (アザトカワイイ) あざとさはなかったけれど。
 上品と省エネ(コスパとかも)は紙一重だけれど、ミスの要素がマイナスへ働きにくいことに上品の上品さを感じます。

 

 未熟さを売りにしたアイドルが〜という主語に対して、私は、それをしっかり見て甘やかすことが上品で面白い世界につながっていけば良いなと、ただ自分が可愛さにキュンキュンしたいことを特に隠すこともなく、今日も、最高だった!とだけ言いたい。日向坂のキュンが言っていた"ポニーテールに髪を束ねた「可愛い」"には頷くしかない。(その日ポニテをやっていたメンバーが誰だったのかという話です)

 

 ライブでのユラユラに備え、前物販のあとの空き時間はゆったりと一人で昼飲みをした。
 プロント昼飲み。最高だった!プレモル香るエール。ちょうどよく静かな人々と、ちょうどよく明るい照明。購入したレコードのライナーを眺めながら。”上品”な時間だった。
 JR新宿駅の名店といえばベルク以外ありえない。情報量の多い店内。文化の香り。黒ビール、そしてつまみには山菜とカリフラワーのピクルス。短時間の滞在でもみんなの”笑顔”が印象的だった。こんなに入りやすいお店は見たことない。ちょっと変な店員さんも面白い。

 

 前物販とユラユラ(ほろ酔い)の間に行っていた場所はディスクユニオン新宿クラシック館だ。初めてレコードを買いますみたいな気持ちでパッヘルベルの”カノン”を手にとってみても良かったのだが(題名だけでも見たかったのでちょっと探した)、今日初めて透色見ます!なんて伝えた後にやることじゃないだろ…と少し恥ずかしくなりながら、結局フォーレのレコードをゲットしていた。良い買い物だった。そこにはピアノ五重奏とピアノ三重奏が収録されている。

 

 右隣のおじさんが熱心にミックスを入れていたので私も重ね合わせた。(声出しあり、ありがとう。)学生とおぼわしき快活な若者たちは曲間ごとに最高!とかありがとう!とか、皮膚がちぎれそうなくらいの強烈な拍手をステージに送っていた。アンコールの声出しにはオレも同じくらいの熱量があったと思う。

 

 ぐるぐるカタツムリのサビ、3発クラップの心地良さ、ユラリソラの2Bクラップの楽しさ。メッセージ性(の強い最後のブロック)に絡みつく重さ、それをものともしないピンク色のマイペースと力強いひまわり。黒髪ボブというしつこいくらいの推しポイントは、あれやっぱりボブって黒髪が一番良いのでは..?と完膚なきまでに思わせ、ライブという爆発力の現象に張り合うほどコンセプチュアルな感想を述べた最年長が凄かった。水色の青空を見て、大切なものは大切だと言い切る清々しさがまさに春だった。

 

 孤独を受け入れているからまつわりたい。それがこじつけでも、それを運命論者だと言われても、さほど重要ではない。かつて先人たちが長く厳しい航海で夜空の星に名前をつけていったように、まつわっていくこと、それは古典的な推し活の一つだと言えるだろう。

 

 偉大なクラシックの作曲家はあの「月の光」を悲しくも美しいと表現させられた。私は最速の鉄道で家に帰っていった。ライブは、清々しくも暖かった。ちょっどだけ寒い雨の日だったから、この結論はコートを着て行ったおかげだったかもしれないと笑った。帰りの湘南新宿ラインが夜の横浜を爆速で駆け抜けていった。

 

孤独とタイヨウ「限りない温もりを」(なおセトリ落ち)

 

 

 

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睡眠と民謡と運動と沈黙と - 日記

 眠る体勢をとった瞬間に眠っていた感覚で、起きたら土曜日の朝だった。早起きをしたので清々しくコーヒーでも飲みに行くか … … そんなことを思った瞬間に早めの昼食が似合う時間だった。年間を通してこれほど良い睡眠はないだろう。合計10時間の睡眠はそんな感想を引き出していた。


 今日もピアノを弾いた。近々、ちょっとした演奏をする機会があるので、なんというか、ピアノを弾きはしたいが、誰かに伝わりやすいような型にはめていく、まあ、練習といったところだった。そこでは大した集中力も発揮せず、ぼんやりとTwitterを開けばアイドルの下書きスクショツイートが流れてきて、笑った。


”「ねぇ一緒に歌ってみない?」は前ツでも標準語 りちりちは東京スタイルなので” (@kanon_skirdrp)


 透色ドロップ「りちりち」は速い沖縄民謡みたいな曲だった。目の前のピアノでサビのメロディをなぞってみると、Dmキーのニロ抜きだった。さっきのツイートにもあるように、ラスサビ前のセリフ「ねぇ一緒に歌ってみない?」はセガワさんが担当している(のでしょうか)。続く半音下げの転調があまりにも心地良い。YouTubeで沖縄民謡のまとめ動画を再生した。唐船どーいが似ているのかもしれない。(”唐揚げ船”とタイプしたが漢字の読みは”トウシン”)


 日本国内において、東京から遠くへ行けば行くほど時間の流れが遅いというどこかで聞いた、ありふれたような言葉に従えば、沖縄や北海道の民謡にはその感覚が生活のスタイルから組み込まれているはずだ。北海道に住んだことがある。それはわかるような、わからないような、わかった気になっているような、わからないふりをしているような感覚だ。「りちりち」を速い沖縄民謡だと表現したが、それこそ東京(アイドル)民謡の姿なのかもしれない。民衆の共同体による民謡。オタクは共同体なのだと聞くことがある。


 彼女たちは今日も行き交う人々の中でさらに偶然居合わせた人々が集まった、狭く、しかし夢を見るには最高に広い東京のハコでライブを行なっている。ではその熱量がいったいどこから生まれているのかといえば運動エネルギーであって、時に太陽だと呼ばれるアイドルがオタクに見せるライブは、当然オタクと熱量を保存しているように感じる。オタクから、今日はフロアの熱が高かった、というような心拍数も高い感想を聞くことがあり、それはステージの熱を下げまい、むしろ上げてやろうという相互作用を起こすためのオタク的"存在”を示している。善し悪しや優劣をつける目的を排除しながら、鑑賞者的"存在"とは異なるアティテュードなのだと思う。... ... ところで私は物理学に全くと言っていいほど明るくない。これまでのトンデモ理論を聞いたらあのリケジョ(さん)は頭を抱えるのかもしれない。そんな鑑賞者の妄想が届くことはない。なぜなら相互の作用が起こったその瞬間に鑑賞者ではなくなるからだ。そしてライブに行ってみようと思う。ラスサビで半音下げの転調を行うことはライブの熱も下げる、なんて別のトンデモ理論がどこかのインターネットで展開されていたとしても、それはそれで面白い。スティービー・ワンダーの「Summer Soft」もかくありき、ひたすら上昇を続ける音楽がアイドルの現場を沸かせている風景だって面白い。


 昨日に続いて今日もジャズ喫茶へ行った。Sidewinderという店が神奈川県の逗子市にある。名前からしていかにもジャズロックファンのオヤジがやっていそうで、その通り、ここでは定番のジャズも、さらにロックやソウルもかかっている。J-PopのCDだってリクエスト用のバインダーに載っている。持ち込みもなんでもOK。なんて面白いお店なんだ。コンビニの二階、なんてこともない建物の階段から最も遠い一角にひっそりと、その空間は音楽を主役にしている。

 

 今日は山下達郎のライブCDがかかっていた。ジャズを聴きに来たのに、ここ数年の再(再々)評価の流れも落ち着いてきた達郎がジャズ喫茶でかかっている。面白すぎる。何より音がデカい。もう少し音量をあげてしまったら耳がキンキンするレベルだ。そして何度聴いたのかなんて覚えていないスパークルのイントロのギターカッティング。笑ってしまうほど良い。


 お客さんから受け取ったCDをプレイヤーにセットするマスター。数十秒の無音が、無音だと思えないほど街の交差点を浮き出してくる。ブラインドの隙間から見える自動車や人々はジオラマのように見えた。鳴り出したゆるいピアノトリオが誰かの生活に溶け込みそうで、苛立ちかけるふりを試してみても、音楽から灰色の暮らしを見出してしまうことがあった。


 私はマイルス・デイヴィスの『E.S.P.』をリクエストした。レコードのB面でお願いしますと言った。トニー・ウィリアムスのドラムソロから始まる一曲目が好きだ。消えていくように力が抜ける残りの二曲も素晴らしい。この曲順が良い。マイルスの第2期黄金クインテット、そのあまりにも知的な演奏は特別の中の、さらにほんの一握りの特別な空気感がある。長く感じる沈黙が心地良かった。


 別のお客さんがキース・ジャレットを持ち込んでいた。アメリカン・カルテットだ。私は普段、ヨーロピアン・カルテットを聴きがちなので、そっちの愛好家とも話をしてみたくなった。


 勝手に音楽が流れていく。ぱらぱらとエッセイ集をめくったり、目を閉じて、このまま寝てしまおうかと考えてみたり、今日は10時間も寝ているのだから … … また何かかけますか?マスターに尋ねられた。私は、じゃあ、と、一呼吸だけ置いて、壁に飾ってあるレコードの中からリー・モーガンの『Candy』を選んだ。


 ”あまいあまいだよ(՞っ ̫ _՞)”これは一体誰がどこで言ったセリフだったのだろう … … 考えることをやめて階段を降りていると夕方のチャイムが鳴っていた。ジオラマのように見えたあの交差点に入っていく。私だってそこにいれば、ただのありふれた帰路だった。あの日のように、なのかどうかもあやふやにしてマクドナルドでハンバーガーを買った。数年前に、さらに数年前そこがバ先だった友人から教えてもらったおすすめのメニュー、エグチのケチャップ抜きだ。マクドナルドへ行く度、私は彼のことを思い出す。会計の列に並んでいると、目の前の人はお持ち帰りを選択していた。私はテイクアウトを伝えるつもりだった。私にとって”お持ち帰り”で思い浮かぶ最初のイメージは、前時代的な方の意味だ。テイクアウトは海外で伝わりません。お持ち帰りはto goと言います。という聞いたことの(読んだことの)あるあれもいつかどこかで役に立つかもしれない。気づいたら私はスマホでブラウザを開き、グーグル検索を使っていた。「to go スラング」… … 予想は外れたが、しょうもなさで笑えてきた。計画通り、私はテイクアウトという言葉を発した。エグチのケチャップ抜きを単品で一つお願いしますと言った。それを、夕暮れを眺めるにはまだ早い、駅前の、誰もいない歩道橋の上で食べた。これが、もし月見バーガーだったらやりすぎだったかもしれない。まだ3月なのに、まだ春でいたいと思った。

 

 

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甘いピアノの星座 - 鎌倉のジャズ喫茶にて

 朝、ピアノを弾く。Lee Jin Ahの「Candy Pianist」をコピーする。簡単に弾けそうかつ気持ちいい部分を切り抜いた。30秒くらいの動画になった。この動画は今日、たくさん聴いた。みんなの演奏も自分の演奏も好き。音楽が好きだから。

 鎌倉のジャズ喫茶「Jazzの泉」へ。

 店内はほぼ満席。平日の昼下がりから鎌倉ビールやハイボール(メーカーズ)を注文するお客さん。良いな〜。たんかんの生しぼりジュース、とっても美味しかったです!という会話が聞こえる。ちょっと待ってくださいね。あーいや、焦らずゆっくりで良いですよ。すいませんねえ。今日はマスターがいなかった。奥様が一人できびきびと動いていた。それでもお客さんとのお話はゆっくりで良かった。

 コーヒーとお菓子を注文した。3段の器に盛り付けられたチョコレート、ビスケット、ゼリー。アフタヌーンティー(チェーン店の名称)で見る憧れのアレだ。最高だ。恋愛や仕事の話をしなくていい。ここには音楽があり、ここではみな、同じ音楽を聴いているのだ。

 ここではブルーノートのアートワーク集だって、ブルージャイアントの漫画だって、村上春樹のジャズエッセイだって、何でも揃っている。何も持たずにここへ来れば良い。鎌倉駅からの10分。リクエストしたいアルバムくらい考えてみたら楽しい。

 万葉集の解説書を読んだ。印象的だったうたをメモったりした。リュックサックには愛萌ちゃん(さん?)(先生?)(氏?)の新刊『きらきらし』がある。

 店内は、デクスター・ゴードンスコット・ラファロ…私のリクエストが決まった。キャノンボール・アダレイの『Know What I Mean?』にしよう。リバーサイド4部作を避けて、スコット・ラファロビル・エヴァンスを別々に聴いてみよう。このアルバムは素晴らしい。1曲目の「Waltz For Debby」は超有名曲だ。耳タコのジャズファンも多いだろう。しかし侮ってはいけない。キャノンボールエヴァンスがお互いに少しだけ遠慮しているような、そんな可愛らしい雰囲気がこの曲にぴったりなのだ。エヴァンスのたおやかなテーマからキャノンボールのアルトが入った瞬間、店内は柔らかい笑顔を包んでいたと思う。力強い出音。でも今日は繊細に。心地良さそうなキャノンボールエヴァンスも心なしか明るい気持ちになっているようだ。二人の相性は抜群。

 ブルーノートソニー・クラークを聴いた。1作目。 ドラムのルイス・ヘイズがとても若い。リーダーのソニー・クラークはこの頃から渋く粘っこいコンピングを完成させている。これでキャッチーなメロも書けるのだ。クールストラッティンがブルーノート不朽の名作と呼ばれることには納得しかない。アート・ファーマ、カーティス・フラーハンク・モブレーの3管。春を強く感じる。今日の最高気温は21度。ベースがウィルバー・ウェアで良かった。このアルバムのコンセプトはリーダーの誕生日なのだが、そうなるとやっぱり、この演奏がよけいに似合う。

 気づいたら客は私一人だった。まだ閉店まで時間があるので最後に聞きたいものありますか?と、声をかけられた。ビル・エヴァンスの『You Must Believe In Spring』をリクエストした。今日はどうしても春だった。もうこれから来る春を信じる時期ではないけれど、でも、今、こうして見ているささやかな時間を信じてみても良い。春はあっという間だ。それはみんな知っていることだけれど。

 ピアノがお好きなんですか?はい。独学でピアノを弾いてるんです。

 生ぬるい鎌倉の夕方を歩いた。駅の周りをぐるりと大回りで。音に研ぎ澄まされた皮膚が消えそうな寒さを捉えていた。ビル・エヴァンスジム・ホールの『Intermodulation』を再生していた。

 誰かが、繊細な気持ちになっているのかもしれないと思えば、私はそれに耳を傾けてみたい。深くなっていく青空を見上げて、あの星は溶けない砂糖のように輝いていた。

 みんなの甘い感情が好きだった。マスターは歯医者に行っていたらしい。

 

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日記3/3

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日記3/3

 

天上を見ながら聴く音楽に踊るという表現はないのさ。

そうやって否定すればするほど、音楽は近づいてきた。

心はもう死にたい死にたいと、感情を消失させていた。

体はまだ生きたい生きたいと、心臓を鼓動させていた。

 

部屋には、音楽と鼓動だけがあった。

 

いつから自由のためのビートが必要になったのだろう。

私たちはチャイムで駆け出して席に着くことができた。

 

あのスーパーマーケットの屋上に行った。

クレーンゲームのぬいぐるみが夢を見た。

 

 

海へ向かう道で泣いている人を見た。

悲しくも嬉しくもなかったのだろう。

 

それでいて感情は鼓動に訴えかけていた。

羨ましかった。生きたいと願えるお前が。

許せなかった。生きたいと思えるお前が。

そんなお前に打ち明けることはなかった。

 

ただ鼓動を感じていた。

そこには音楽があった。

 

朝方、海を見ていると、灰色の雲が町から海に流れて行った。

私は、水平線へ向かう変わり果てた姿を最後まで眺めていた。

 

あのスーパーマーケットで買ったトマトジュースを飲んだ。

今日は夜、初対面の人と急に、会って話すことになった。

手が滑って、シェーバーで切った唇に血が付いていた。

いつもだからでもなく、海ではマスクを外していた。

 

 

今も昔も、私の生活はあまり変わっていない。

コーヒーを飲み音楽を聴き続けることだけだ。

飲み物は、ほんの少しだけアルコールに変わったのだが…

 

そうこうしているうちに出発の時間が近づいてきた。

 

(LINE)「昨日体調大丈夫だった?」

 

?

 

…..まさか!

 

(LINE)「ごめんーーー日付間違えてたーーー!」

 

(LINE)「心配してくれてありがとう。体調は大丈夫。」

 

(LINE)「昨日のネタ作り、うまくいった?」

 

2023年2月22日、水曜日。

ネコと音符のシャツを誰かに見せることはなかった。

 

 

にゃんにゃん。

 

日記3/3 終わり (残り0/3)