上品なSpringとカノン進行

 「死ぬ時に今日の事を思い出してください」
 重い。しかしそのカノン進行(MC(煽り))を聞いた時、私は頭の中で追唱する言葉とは少し違う、妙な説得力、そして納得感に包まれていた。
 ライブが始まる数時間前、初対面のセガワ”カノン”さんから聞いた今日の見どころはこれだ。
 「しっとり系の曲が好きだけど、メンバーは笑顔の曲が好きって言ってくれるんだよね。」
 新宿BLAZEで行われた透色ドロップの単独公演は全20曲、演目は『風光る頃』だった。私も、セガワさんによって歌われる笑顔の曲が大好きだと思う約2時間を感じ取った。噛み合わなさをわかっているからこその妙な、知的な説得力、そして何より彼女のあまりにもしっかりとしている間を読んだMCや声量が確保された歌声、あと、熱血とパワーの雰囲気…
 翌朝、セガワさんはこんなツイートをしていた。
 「生きてる?わたしはさっき生き返った」
 生命が停止するという意味での”死ぬ”を込めたことに疑問はないけれど、このツイートが後付けのネタばらしだという考察を受け入れるのならば、それは、毎日今日のコトを思い出してぐっすり寝てねというメッセージ、あのMCは子守唄を奏でる時のような、穏やかな気持ちだったのかもしれない。これでは考察というかただ妄想じゃないか。

 

 せっかくアイドルのライブに来たのだし、すぐ目の前でビジュアルを見てみたいという”ヤッパリ”な感情で心春さんの特典券を入手したのはライブ前日の話だった。どうやらここは電子チケットでチェキが撮れるらしい…と、それはまあ知っていたけれど、前日にアップロードされた写真が自分の好みにちゃんと刺さったのでその気持ちが即反映されたようです。このシステムはヤバイな。理解した。
 中盤くらいからはペンライトを紫色に変えて(これは予定通りです)、その先のステージを見ることが多かったというか、あの、王道J-POPの曲調(最高だ!)を長く見るから美しいというような、ワンマンに行った意味のある感情だった。
 ダンスが凄く上品で、ともすれば省エネとまで言われてしまうような繊細さを味わったと思えば、メンバーもオタクも裏方スタッフも、ブレイズの全員によるMC飛ばしへの甘やかし、その可愛さに完全に釣られてしまいました。”一目でYeah, Yeah, Yeah” (アザトカワイイ) あざとさはなかったけれど。
 上品と省エネ(コスパとかも)は紙一重だけれど、ミスの要素がマイナスへ働きにくいことに上品の上品さを感じます。

 

 未熟さを売りにしたアイドルが〜という主語に対して、私は、それをしっかり見て甘やかすことが上品で面白い世界につながっていけば良いなと、ただ自分が可愛さにキュンキュンしたいことを特に隠すこともなく、今日も、最高だった!とだけ言いたい。日向坂のキュンが言っていた"ポニーテールに髪を束ねた「可愛い」"には頷くしかない。(その日ポニテをやっていたメンバーが誰だったのかという話です)

 

 ライブでのユラユラに備え、前物販のあとの空き時間はゆったりと一人で昼飲みをした。
 プロント昼飲み。最高だった!プレモル香るエール。ちょうどよく静かな人々と、ちょうどよく明るい照明。購入したレコードのライナーを眺めながら。”上品”な時間だった。
 JR新宿駅の名店といえばベルク以外ありえない。情報量の多い店内。文化の香り。黒ビール、そしてつまみには山菜とカリフラワーのピクルス。短時間の滞在でもみんなの”笑顔”が印象的だった。こんなに入りやすいお店は見たことない。ちょっと変な店員さんも面白い。

 

 前物販とユラユラ(ほろ酔い)の間に行っていた場所はディスクユニオン新宿クラシック館だ。初めてレコードを買いますみたいな気持ちでパッヘルベルの”カノン”を手にとってみても良かったのだが(題名だけでも見たかったのでちょっと探した)、今日初めて透色見ます!なんて伝えた後にやることじゃないだろ…と少し恥ずかしくなりながら、結局フォーレのレコードをゲットしていた。良い買い物だった。そこにはピアノ五重奏とピアノ三重奏が収録されている。

 

 右隣のおじさんが熱心にミックスを入れていたので私も重ね合わせた。(声出しあり、ありがとう。)学生とおぼわしき快活な若者たちは曲間ごとに最高!とかありがとう!とか、皮膚がちぎれそうなくらいの強烈な拍手をステージに送っていた。アンコールの声出しにはオレも同じくらいの熱量があったと思う。

 

 ぐるぐるカタツムリのサビ、3発クラップの心地良さ、ユラリソラの2Bクラップの楽しさ。メッセージ性(の強い最後のブロック)に絡みつく重さ、それをものともしないピンク色のマイペースと力強いひまわり。黒髪ボブというしつこいくらいの推しポイントは、あれやっぱりボブって黒髪が一番良いのでは..?と完膚なきまでに思わせ、ライブという爆発力の現象に張り合うほどコンセプチュアルな感想を述べた最年長が凄かった。水色の青空を見て、大切なものは大切だと言い切る清々しさがまさに春だった。

 

 孤独を受け入れているからまつわりたい。それがこじつけでも、それを運命論者だと言われても、さほど重要ではない。かつて先人たちが長く厳しい航海で夜空の星に名前をつけていったように、まつわっていくこと、それは古典的な推し活の一つだと言えるだろう。

 

 偉大なクラシックの作曲家はあの「月の光」を悲しくも美しいと表現させられた。私は最速の鉄道で家に帰っていった。ライブは、清々しくも暖かった。ちょっどだけ寒い雨の日だったから、この結論はコートを着て行ったおかげだったかもしれないと笑った。帰りの湘南新宿ラインが夜の横浜を爆速で駆け抜けていった。

 

孤独とタイヨウ「限りない温もりを」(なおセトリ落ち)

 

 

 

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