『Contemporary Northern Cruise』第2の章 海の見える街で

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第1の章 待たせすぎたオタク

第2の章 海の見える街で

 

ジブリの音楽は船をのせて北へ向かっている。

久石譲のサントラは穏やかな海を見せている。

旅立ちの日にだって束の間の瞬間がある。

ふと周りを見渡せば各々の束の間がある。

 

ガイドマップを手に船内を歩けば、そこは航海が作り出している18時間の小さな小さな海の見える街だった。

やがてこの街を懐かしむほどの月日が経つことを考えていると、今はここから始まったのだ。

何度だってあることにもうすっかり慣れてしまっている。それが強く悲しいわけでもない。過度に喜べることでもない。様々な波があった。

 

神奈川の湘南エリア、広島の尾道市、長崎の五島列島、どれも私が愛する海の見える街だ。

 

湘南で無邪気に海水浴を楽しんでいた私に父親がかけた言葉をよく覚えている。

「波が弱くてつまらないなと思う日もある。そういう時は100回に1回の波を見極めるといい。」

仕事をバリバリこなしてゆっくり酒を飲むような父親なりの、過敏な子どもに対する愛情だったのかもしれない。

いつかの“今思えば”という感情のために投げかけられていたことを、私は今、もう知っている。

 

2018年12月27日。STU48「風を待つ」のMVが公開された。

私は年末の空気で浮かれた気分に重くのしかかる感銘を受けた。

映像の舞台は広島県尾道市だった。

楽曲の素晴らしさについては秋元康ワークスを追ったことがあるほとんど全ての人に理解してもらえると思う。大傑作だ。

ワンカットのカメラが尾道の坂道と石段を捉える。ブルーの衣装を着たメンバーが駆け上がっていく。

ラストシーンの公園からは海が見える。ドローンは街の姿を見せる。

2019年1月末、私は尾道にいた。

 

人生で最も影響を受けた人は長濱ねるさんです。

自分勝手にガチ恋をして”ちょっぴり”どころではないほどつらい時期がありました。

ねるさんはアイドルでした。周りに求められている自分を作っていたと言っていましたが、ねるさんが考えたそのすがたに私はささやかな共感を見つけたのでした。

今はもう多くのことを語る必要がありません。

長濱ねるさんは人生で最も重要な他人なのです。

私が奈良尾のあこう樹をくぐり抜けた時、図書館から本を抱えて歩いてくるねるちゃんがいました。

 

海の見える街を繋ぐ記憶は航海の波についてくる。

記憶の親はいつまでも見守っていくことができる。

 

目を閉じても潮騒は聞こえる。

 

波はまた、静かに大きいうねりを始めていた。

 

第3の章 今、何を考えているの?

 

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