『Contemporary Northern Cruise』第3の章 今、何を考えているの?

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第1の章 待たせすぎたオタク

第2の章 海の見える街で

3の章 今、何を考えているの?

 

海を進んでいく“小さな街”は土曜日の早朝くらい静かだ。

ここの住人は今日に限って早起きをする人が多い。それでも日の出を見に甲板まで降りてきた人は少なかった。

慣れることが贅沢をする秘訣なのか、どうなのか。今の私にわかることでもないだろう。

睡眠時間を削って特別感を演出する旅が楽しくなかったことはなく、いつもと同じような生活を新鮮な街で過ごす旅には発見がある。

修学旅行の夜をどう過ごすかに学生の思想が現れたわけだが、あまりにも選択肢が多くてワクワクしていた。無限の可能性を感じた。当時は消灯時間を向かえたらすぐに寝て朝の4時頃に起きるムーブが一番イケているという考えが通っていた。早く起きようとして早く寝たのに遅く起きてしまったエピソードなんてごまんとある。むしろこの特殊な状況の場合、その選択をした時の結果はだいたいこれになるという考えまでをも通っており、それでも、そんなリスクを取らなくても…なんて考えることはなく、ただただ、長い夜を続けていただけだった。

今は、睡眠時間が長い夜を続けた方がクレバーだという考えが通っているものの、ひとまず認識はしているだけで全くその通りにはなっていない。今の私にわかることでもないだろう。

私は深夜に”ツイートすることなし”とツイートをするだけなのだ。朝まで音楽を聴き続けることはわかっているのだが。

睡眠時間を削っている特別感ではなく、私は毎晩、音楽によって沈黙の旅をやっていた。何にも慣れない新鮮な夜はイマジネーションだけが拡張していくが、現実世界のシステムは案外よくできていて、そこからはみ出た思考を上手く取り入れる余裕もないらしい。こっちがリアルに寄っていくしかないらしい。少なくともそういうものを希望しているならそうするしかないらしい。音楽は流れ続けてくれるので街を頼る方が良い。それがリアルに近づくひとつの手段らしい。旅行なんて散歩でも良い。なぜなら散歩はどう考えても自分の足で歩いていることを知っているからだ。そんな日が生憎の雨だったりする方が良いことを君が切り開いていった想像の旅はささやきかけてくる。

さて、この文章を続けるためにも、こうしていつまでも6階プロムナードラウンジに座り続けていては面白くない。静かな街の集いを探しに行こう。

船上パーティーが行われるのならば、その場所は甲板だ。ceroも言っていた。たぶん事件のにおいを嗅ぎつける探偵だってそう言ったと思う。ceroは街の探偵なのかも、と思った。私は『My Lost City』の長い住人として捜索に協力できそうだ。海は出てくるが夢ではない。あの娘もチャンバラも夢の中だけで良かった。

さっそく7階への階段をゆっくり上っていく。ここはバルコニー付きのスイートルームがある贅沢なエリアだ。半円を描く形の階段から6階、さらに5階の一部をちらりと振り返りつつ、当然何もなく、7階に立った私はそのあまりにも静かで細い一直線の廊下を見通した。良い部屋に住んでいるのだからそれもそのはずだし、青山-表参道みたいな感じね。と、気を緩めてみた休日の探偵みたく雑に例えた。そういえばスパイラルマーケットの階段に近いデザインかもしれないと要素を拾ってみても、あのフロアには緊張感があり長く滞在することもないので長い廊下をさくっと歩いて街の後方にある展望デッキを目指した。慣れることが贅沢をする秘訣なのか…

いや少し待とう。5、6、7階に渡って続く展望デッキは最後のデザートにしよう。あるいはメインのおかずか。お弁当で好きなおかずをいつ食べるのかの話題が大好きなのだ。そんなようなことを一人でやらせてほしい。老後までやりたいと思っている。私の考えは最後まで取っておく派だ。”今日は””そうしよう”と思う。ちなみにデザートはみんなで一緒に食べたい。その時はみんなを海の見える良い風景に案内したい。この旅に同行人はいないが私にとって音楽はそういう感覚のもので、だいたいこんな場合にこのことわりが置かれる必要性をも、もうほとんど感じてはいないくらいだ。音楽は風景を表すことがあるが、その風景を音楽に見せるのはリスナーの役割だろう。

6階はスタンダードルームが並ぶといった趣で、前方にはレストランもある。昨晩からの私の定位置はこの階の東側、プロムナードラウンジ、その最も進行方向に近い側を陣取っている。等間隔に続く横並びになった低めの椅子からは5階と6階を行き来する階段越しに、さっきの日の出を見た海がある。

今、この街の住人は一度きりの日の出について考えている。

 

第4の章 祈る秋

 

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