私はインスタントコーヒーの瓶を持って10月の山を眺めていた。
山頂からわずかに噴き出した雪と瓶に流れる消えかかった香り。
ペットボトルのサイダーを開ける。コーヒーに注ぐ。
CDもレコードも、ドアノブも、どれも時計回りに進んでしまう。
逆回転で切り取った風景が蛇口を開ける。
水道水が流れる。ただの記憶が流れる。
サイダーの泡が弾けて消える。
ただ流れ続けている灰色の水。
薄いコーヒーを身体に入れて、イヤホンを耳に入れて、行ってきます。
両足を揃えて、目を閉じて、勢いよくドアを開ける。
音は進んでいく。かつては輝いていたと言われる音もどこかで誰かが進めている。
それはブラジルの誰かかもしれないし、ベトナムの誰かかもしれない。
134号線沿い、珊瑚礁のカレーライスはみなとみらいの観覧車を逆回転させた。
私は息をあげて走っていた。置き忘れた瓶をゆっくり閉める。
次の景色を見ていると...今夜のメニューはシチューに決まり!
さて、この街のどこかで逆回転が起こるだろう。
さっきのドアノブのネジは緩んでいた。
一瞬の風景から噴き出したすきま風を背中に感じていることが反時計回りを頷かせるというワケだ。