齊藤京子の足跡を辿る
みなさんは「齊藤京子の足跡」をご存じだろうか。
2018年1月、Twitterに突如現れた謎のアカウントだ。
*画像は2019年4月13日のもの
これはその"足跡"を辿る物語である。
>第一章 ネタと妄想
これが足跡の始まりだった。
ここから、日向坂46の齊藤京子を主人公にした数々のツイートが投稿される。
最初に文章のみのツイートを2つ、続いて写真が添付されたいくつかのツイートをして見せた。
まずは、初期のツイートを紹介する。
初期はしらすまぜそばやツアーのことなど、実際の齊藤京子でタイムリーな話題から、文章とそれに関する写真で構成されていた。
>第二章 4つの写真
しばらくすると、足跡は文章の内容と関係ない齊藤京子の写真が4つ添付されたツイートを標準にしていた。
そして、足跡は様々な状況に置かれる齊藤京子を見せた。
学生、医者、ボクサー、ゲレンデ、色...あらゆる齊藤京子が登場しており、到底ここには書ききれない。
中の人の個人的な感情や日常、そういったものは一切文章に反映されない。
徹底したキャラクターが印象的だったのがこの時期である。
ここでは足跡の神髄とも言える、4つの写真のツイートを紹介する。
この時期は、ありとあらゆる状況、単語、概念が齊藤京子に置き換わり、齊藤京子の多様性を見せられた。
>第三章 残香の後
2018年10月12日 、「東村芽依の残香」の誕生を足跡がツイートする。
このアカウントは足跡の神髄をそのまま利用する形で5つのツイートを残したが、プロフィール欄にも書いてあるように苦情を受け、物語の続きは今後の展開次第となった。
こうして、ひとつの形式にこだわることを止めた足跡は、文章に漫画のセリフや洋楽の歌詞を引用し、さらには齊藤京子のひとこと豆知識(全16ツイート)という新しい展開を見せ始めていた。4つの写真についても文章と関係のあるものが見られるようになる。
ここまでも足跡は中の人の存在を全く匂わせず、ただ淡々とツイートを増やしていった。
>第四章 分岐
足跡は2018年11月30日から12月3日にかけて前中後編の短編ツイートを見せた。この形式は後にもう一度だけ登場している。
この時期のツイートは、前中後編のものも含めて性的な表現を使った内容が増えている。
足跡はさらに、長編「ブランチ」をスタートさせる。
*私はこのブランチを一度しか読んでいない。細かく思い出せる範囲からまとめる。
ブランチ
齊藤京子と高本彩花が登場する学園ドラマチックに始まったこのブランチは、今までの足跡と対照的で、とても細かい心理描写が見られた。アンケートを駆使して物語を読者に"分岐"させたりと工夫もあった。
しかし、中盤あたりから官能小説に変貌し、批判や誹謗中傷を受ける。
完結はしたもののやがて削除という結末になった。
さらに、この間に足跡はまた新たな展開を見せていた。
・中の人が現れる
・アイコンを募集する(とべないブタさんのアイコンが採用される)
・ハッシュタグを使う
・3.11についてコメントする
・他のアカウントの名前を出す(世間を斬る齊藤京子のイケbotさん )
ツイートのパターンが増えていき、足跡のフォロワーは3700を突破する。
こうして、一部からの批判や誹謗中傷を受けながら新しいツイートは模索され、読み手の反応をうかがっていた。
>最終章 足跡の正体
2019年4月某日、足跡は、自分は女性でありLGBTでもあると告白する。
DMのやりとりを晒されたり差別発言をされたりとその被害を主張するツイートもあった。
一連のツイートが削除され、改めて自らの考えをツイートしている。
さらに、方針を変えていいねやRTも解禁した。
明らかに方向性を変えたと思える動画付きのツイートが投稿されている。
だが、その対応も虚しく、アカウントからはさらに悲痛なメッセージが発信された。
2019年4月12日、ついに足跡はアカウントの削除を発表した。
こうして、約1年3か月の「齊藤京子の足跡」は終焉となった。
「齊藤京子の足跡」はなぜ誕生したのか、なぜこのような足跡を見せたのか、どこまでの中の人がネタで、嘘なのか、全てが謎のまま足跡は途切れ、この物語は最後のページをめくった。
あとがき
私が「齊藤京子の足跡」の存在を知ったのは2018年の春ごろだったと記憶しています。
元々のきょんこのイメージを足跡さん持ち前の文才で非現実的に拡張するツイートが非常に興味深く、半分マジと思えるユーモアがフィクションとして面白いと感じました。
個人的に、特に好きなものを4つ紹介します!(まだまだあります!)
あまり知られていないが、人間の性別は男、女、齊藤京子の3つに分けられる。歴史上、齊藤京子を引き当てた者は未だ齊藤京子しかいない。
如何なる場面においても涙を見せない齊藤京子。記憶に新しいのは、武道館でのひらがな単独アルバム発売のサプライズ発表であろうか。観客すら涙腺が緩んだあの発表も、彼女は舞台上で不動明王だった。ライブ後、彼女は楽屋の隅でこう漏らした。
「人間がなぜ泣くか分かった。私には涙を流せないが。」
ある男がいた。男は人生に飽き、なぜ自分がうまれたのか毎日考えていた。ある日、男が何となく自宅のテレビを付けると、アイドルの女の子がラーメンについて熱弁している姿があった。すると男は何故か急にラーメンが食べたくなり、夜の街に駆り出された。こうしてまた一人、世界に齊藤京子がうまれた。
いわゆるネタツイや妄ツイというものをツイートしているアカウントは、基本的に中の人の感情が出ています。疲れたとか眠いとか、むしろそれがツイッター本来の使い方ですから。
しかし、齊藤京子の足跡は本性を見せることがありませんでした。あの告白も、最初はこの物語を成立させるための嘘なのではないかと驚きました。ある程度の期間、リアルタイムで更新を見ていた人ならこの世界観がわかるはずです。
ここまでガチガチに作り上げられた世界観が長編「ブランチ」の繊細な心理描写をさらに際立たせていたと思います。読み返せないのが惜しいです。スクショなどで一部でも持っている人がいたら見せていただきたいくらいの傑作です!
齊藤京子の足跡さん本人にブランチの感想を送ったところ、その3倍以上の文字数で返事が返ってきました。自分のせいで結果的にきょんこのイメージが悪くなるのではないか、と少し考え過ぎな部分もありましたが、それを聞いてなんだか少し安心しました。
その返事の中で足跡のツイートの元ネタも明かしていました。
昔、アメリカが発端で流行った「チャック・ノリス・ファクト」というものだそうです。調べてみたらまさに足跡さんっぽい文章がたくさん出てきました。映画や音楽、漫画などカルチャーにとても詳しい方なんだなと感動しました。
何よりも中の人が女性と判明したときは、二度見どころでは済まされないくらい動揺しました。年齢不詳の男性だなと勝手に決めつけて読んでいたので、最後の最後に大どんでん返しをくらった気分です。中の人を含めて最高の物語だったと思います。
これは個人的な考えではありますが、足跡さんの齊藤京子に反映された多くの状況や表現は、ご本人がLGBTについて主張していたように、その多様性を訴えていたのかもしれないなと感じました。
足跡さんについてもっと話したいのですが、これから読む人により深くこの世界観を体感してほしいので、これ以上はみなさんの想像で足跡を辿ってほしいです。
ツイログを残しているので、ぜひみなさんもお気に入りのツイートを見つけてみてください。
最後までお読みいただきありがとうございます。